立体構造予測、分子動力学シミュレーション、量子化学計算など分子シミュレーションに基づくタンパク質の機能解析
比較モデリング法を用いてタンパク質単体の立体構造予測を、ドッキング法を用いて、タンパク質-タンパク質および、タンパク質-低分子化合物(リガンド)の複合体構造予測を行う。分子動力学(MD)シミュレーションを用いて、これら予測構造の精密化と安定性の評価を行う。また、MDシミュレーションを用いて、分子内・分子間相互作用解析、自由エネルギー計算、ダイナミクス解析などを行う。さらに、量子化学計算を用いて、反応メカニズム解析やMDシミュレーションで使用する力場パラメータの計算を行う。
タンパク質が機能する際の「動き」に注目し、この動きを生み出すメカニズムを、分子シミュレーションを用いて原子レベルで明らかにするための研究を行っている。
リガンドがタンパク質に結合する過程を明らかにするために行った研究を下図に示す。リガンドの結合過程を実験で追跡するのは困難であるため、MDシミュレーションによる結合過程の再現に期待が集まっている。しかし、リガンド結合の時間スケールはミリ秒程度で、通常の全原子モデルを用いたMDで追跡可能な上限(マイクロ秒程度)を大幅に超えるため、非常に速くリガンドが結合する系を除いて適用は難しい。そこで、私たちは計算コストの低い粗視化モデルを用いて結合経路を網羅的に探索した後、頻繁に現れる経路を、全原子モデルを用いて精密化する、マルチスケールアプローチを採用している。
Aは粗視化モデルを用いたMDシミュレーションの結果得られたリガンドの流れを示しており、リガンドが特定の経路を経由してリガンド結合ポケットに入ることを示している。ここで得られた経路の1つを、全原子モデルを用いて最適化し(B)、この経路に沿った自由エネルギープロファイルを計算した(C)。ここから、本来の結合状態の手前に準安定状態が存在し、疎水相互作用によって安定化されていることが示された(C)。