エピジェネティクス研究と創薬研究に用いる、多様なヒストンや再構成ヌクレオソーム・クロマチン、核内タンパク質の提供
真核生物の核内において、長大なゲノムDNAは4種類のヒストンからなるヒストン8量体に巻き付いてヌクレオソーム構造を形成し、コンパクトに折りたたまれて収納されている。ヒストンには様々な亜種(バリアント)や修飾状態が存在し、これらが特定の細胞の特定のクロマチン領域に取り込まれることによって、クロマチン動態ひいてはゲノムDNAの機能発現が厳密に制御されている。これらの制御機構の破綻は、がんや精神疾患、感染症、メタボリックシンドロームなど、様々な疾患の原因となることが知られている。 私たちは、これまでに様々なヒストンバリアントやがん関連変異ヒストンをリコンビナントタンパク質として大量に発現精製し、これらのヒストンを含むヌクレオソームを試験管内で再構成して高純度に精製する系を確立してきた。また、特定のヒストンの特定の位置に任意の修飾基をもつ、修飾ヒストンの作製法も確立している。このように様々な種類のヒストンやそれらを含むヌクレオソームについて、生化学的解析や物理化学的解析、構造生物学的解析を行ってきた。 代表的な研究成果として、2011年に、ヒトのセントロメアに局在するH3バリアントであるCENP-Aを含むヌクレオソームを試験管内で再構成し、その立体構造をX線結晶構造解析により明らかにした(図1、Tachiwana et al., 2011, Nature 476: 232-235)。その結果、CENP-Aヌクレオソームでは、ヒストン8量体に巻き付いたDNAの末端が主要型のヌクレオソームと比較してフレキシブルな性質をもつことが明らかになった。また、2017年には、クロマチンリモデリング因子によるゲノムDNA上でのヌクレオソーム再配置の過程で形成される中間体と考えられている、オーバーラッピングダイヌクレオソームの結晶構造を決定することに成功した(図2、Kato et al., 2017, Science 356: 205-208)。