特殊ペプチドライブラリーを用いたケミカルリード化合物の探索、生理活性検討における小スケール化学合成および活性評価
所属 | ①東京大学 大学院理学系研究科 | |
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氏名 | ①菅 裕明 | |
AMED 事業 |
ユニット/領域名 課題名 |
ケミカルシーズ・リード 探索ユニット(ライブラリー・スクリーニング領域) 特殊ペプチド探索技術が加速する生命科学と創薬の支援 |
代表機関 代表者 |
東京大学 菅 裕明 |
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支援技術のキーワード | 特殊ペプチド、大環状ペプチド、RaPIDシステム、遺伝暗号リプログラミン、フレキシザイム |
本事業計画の「支援」では、菅らが開発した特殊ペプチド探索技術RaPIDシステムを駆使し、被支援者が望む標的タンパク質に対して高親和性をもつ特殊ペプチドリガンドを1兆種類からなるリアブラリーから探索、発見し、化学合成した特殊ペプチド化合物を被支援者に提供することを目的とする。特に、本計画では一般的な低分子化合物スクリーニングではヒット化合物が得られていない、あるいは得難い、いわゆるnon-druggableな標的に対して薬物候補を発見し提供する支援を優先して行う。その中には、蛋白質間相互作用の阻害剤(PPI阻害剤)や受容体膜蛋白質の活性化(アゴニスト)といった、これまで開発が難しかった薬剤開発にも果敢に挑む。また前述の支援で獲得した特殊環状ペプチドにおいては、生体内での安定性や滞留性を考慮した高度化支援も合わせて行う。
支援に供する技術
特殊アミノ酸を望みのtRNAにアシル化を可能にする。
翻訳系内の任意の翻訳因子を系内から取り除き、フレキシザイムで調製されたアシルtRNAと組み合わせることで、任意のコドンに特殊アミノ酸を割り当て、翻訳による特殊ペプチドの合成を行う。
FITシステムとmRNAディスプレイを組み合わせた技術で、任意の標的に高親和性をもつ特殊ペプチドを、1兆種類の特殊ペプチドライブラリーから探索を可能にする。
RaPIDシステムで得られた特殊ペプチド配列を化学合成し、十分量(数mgから数百mg)を提供する。
「高度化」においてはRaPIDシステムを運用できる2腕ロボット、SENTAKun(安川電機製造)をユーザーフレンドリーにするため、ロボットの生産元にプログラムの再開発を委託し、その改良プログラムに適したプロトコールを新たに確立する。それにより、様々な条件下で標的タンパク質に対するRaPID探索を可能にするセミ自動化システムへ進化させ、支援を加速する。
本技術を活用し、これまでに多数の支援を行ってきた。そのうち、顕著な例として2例を挙げる。
大阪大学蛋白質研究所の髙木淳一教授との支援・共同研究では、PlexinB1を標的とした特殊環状ペプチドの探索を進め、目的の活性種を単離した。そのうち、最も強力に結合し、リガンドであるSema4Dとの相互作用をモジュレートする特殊ペプチドについて詳細な検討を行った結果、(1)X線結晶構造解析によりPlexinB1に結合する特殊環状ペプチドはアロステリックに作用することが明らかとなった、(2)結合をモジュレートすることで生理活性を発揮することも判明した、(3)高度化によって改良をした特殊ペプチドは動物実験でも有効な生理活性を示すことが判明した(未発表データ)。これらの成果の一部は、Cell Chemical Biology(2016, 23, 1341-50)およびBioconjugate Chemistry(2018, 29, 1847-1851)に発表した。
金沢大学がん進展制御研究所の松本邦夫教授との支援・共同研究では、HGF標的とした特殊環状ペプチドの探索を進め、目的の活性種を単離した。そのうち、最も強力に結合し、レセプターであるcMETとの相互作用をモジュレートする特殊ペプチドについて詳細な検討を行った結果、(1)特殊ペプチドはプロテアーゼでプロセシングを受けた活性型に選択的に作用することが明らかとなった、(2)特殊ペプチドはHGFの複数のドメインに同時に結合することがわかった、(3)特殊ペプチドがHGFに結合することによりHGFの構造ダイナミクスが変化し、活性フォームをとれないことが判明した。これらの成果の一部は、Nature Chemical Biology(印刷中)に発表した。
支援を担当する東京大学菅裕明教授は、「特殊ペプチド」という独自の創薬モダリティーを創出した世界屈指の研究者である(特殊ペプチドという言葉自体が菅教授の造語)。菅の創出したRaPIDシステムは、標的へ強力に結合し、高生理活性を有する特殊ペプチドを短期間で獲得することを可能した技術である。本支援では、それを駆使することで、被支援者の研究に資する特殊ペプチド化合物を発見し、被支援者に提供する。