タンパク質相互作用、スクリーニング、天然性変性タンパク質、19F-NMRやLC-NMRや固体NMR、NMRセミナー開催
ヒトは約300種類の細胞からなるが、各細胞は基本的には同じDNAを持っている。同じDNAをもっていても細胞機能が異なるのはDNAの高次構造であるクロマチン構造が異なるためである。クロマチン構造はDNAのメチル化や、天然変性状態にある各ヒストンの末端テイル領域のアセチル化、メチル化、リン酸化やユビキチン化等で変化する。このクロマチン構造に異常が生じると、癌や神経疾患をはじめ様々な疾病が発症することが知られている。またクロマチンの構造単位は4種類のヒストン(H2A,H2B,H3,H4)各2個で形成されるヒストン8量体に約146塩基対のDNAが巻き付いたヌクレオソームである。 クロマチンには遺伝子の発現が促進されているユークロマチンと抑制されているヘテロクロマチンがある。ユークロマチンでは転写開始部位のヌクレオソームはクロマチンリモデリング因子等によりはがされ、むき出しになったDNAに基本転写因子とRNAポリメラーゼが結合しRNAを合成していく。RNA合成時にはヒストンシャペロンやクロマチンリモデリング因子によりヌクレオソームの構造が連続的に変化していく。セントロメアやテロメアに代表されるヘテロクロマチンではDNAのメチル化やヒストンH3の9番目のリシンがメチル化されヘテロクロマチンタンパク質のHP1等が結合し、凝集したクロマチンを形成する。我々はDNAのメチル化機構、転写因子TFIIEやp53、DNA修復酵素XPC、細胞周期特異的転写因子DP1などのハブである基本転写因子TFIIHのp62サブユニットのリクルート機構,ヒストンシャペロンNAP1やFACTとヒストンH2AH2BやH3H4との相互作用、ヘテロクロマチンタンパク質HP1とメチル化ヒストンH3の相互作用や細胞周期的なパッセンジャー複合体との相互作用、ヌクレオソーム中でのヒストンテイルの動的な構造変化、テロメア形成タンパク質TRF2と4重鎖DNAとの相互作用等をNMRにより解析している。特にこれらのタンパク質はテイルやヒンジ、リンカーに天然変性領域をもつ、この天然変性領域は伸びた紐状構造での標的タンパク質との結合や、紐状構造同士での動的な絡み合いによりタンパク質間相互作用に関与している。 特に基本転写因子TFIIHのp62サブユニットを認識する様々なタンパク質の伸びた紐状構造による相互作用、HP1、NAP1、FACTやヒストンメチル化酵素によるヒストンとの伸びた紐状構造間の絡み合い相互作用、ヌクレオソーム結合タンパク質での伸びた紐状構造での相互作用等、結晶化できない天然変性タンパク質を標的としている。さらにこのような天然変性領域と標的タンパク質間相互作用解析技術の創薬への応用として髄芽腫や神経疼痛に関連する神経特異的転写因子NRSF/RESTの機能を阻害する化合物を同定し、神経疾患治療薬物の開発も目指している。