エピゲノム編集法で作製したシルバーラッセル症候群モデルマウス。
(1)遺伝子切断活性をなくした dCas9 の端に短いアミノ酸配列(タグ)を複数個つないだものと (2)タグを認識して結合するミニ抗体に脱メチル化の最初の反応を起こす酵素TETをつなげたものを同時に細胞に導入すると特定の遺伝子に特異的に複数のTETが作用し、 効率的に脱メチル化し遺伝子発現を十分に上昇させることができる(Nat. Biotech., 2016、図1)。 これをエピゲノム編集法という。 またこの技術をさらに応用発展させシルバーラッセル症候群モデル動物を作成した(Genome Biology, 2020、図2)。 そこでシルバーラッセル症候群モデルマウスの供給支援をおこなう。
シルバーラッセル症候群は子宮内発育不全、成長障害、身体左右非対称、顔貌の異常などに特徴づけられる疾患である。染色体11p15上のH19遺伝子のメチル化の異常が、この疾患の主要な原因と考えられている。我々は効率的に脱メチル化し遺伝子発現を十分に上昇させることができるエピゲノム編集法を開発し(Nat. Biotech., 2016)、この技術をさらに応用発展させシルバーラッセル症候群モデル動物を作成した(Genome Biology, 2020)。 健常者(WT)では母親由来のアレルでは InsulatorにCTCFが結合するためEnhancerがIGF2に働かずIGF2は発現せずH19が発現する(図3)。それに対し父親由来のアレルはInsulatorがメチル化されてCTCFが結合しないためEnhancerがIGF2に働きIGF2が発現する。シルバーラッセル症候群の患者では父親由来のアレルが脱メチル化されており、InsulatorにCTCFが結合するためEnhancerがIGF2に働かずIGF2の発現がまったくなくなり子宮内発育遅延(IUGR)を引き起こす。そこでエピゲノム編集によりCTCF結合部位を脱メチル化し、シルバーラッセル症候群モデルマウスを作製した。その結果、モデルマウスでは患者と同様にH19の発現が上昇、Igf2の発現が減少していた。このマウスを用いて表現型解析をおこなったところ、シルバーラッセル症候群の患者でみられる症状のうち、胎児の発育遅延、出生後の成長障害、顔貌の異常、食欲不振、低血糖、心臓の異常(線維化)、身体の左右非対称、頭が体の割に大きい、など多くの症状を再現していることがわかった。