A5-1 知識ベース超分子モデリングによる疾患メカニズム解析

超分子モデリングパイプラインで立体構造モデルを構築し、疾患変異マッピングで疾患メカニズムの解析・ドラッグデザインを支援

[1] 支援担当者

[2] 支援技術の概要

• 超分子モデリングテンプレート探索システムSIRDによる知識ベースモデリング・ドメイン=ドッキングシミュレーション・粗視化シミューレーション・複合体モデル可視化解析システムを組み合わせたモデリングパイプラインで、多面的・多角的に超分子複合体の立体構造モデル構築を支援する。SIRDはPDBのタンパク質・リガンドの構造と相互作用データの分類データを保持しており、モデルを作成したいタンパク質サブユニットのアミノ酸配列やリガンドの構造をマルチクエリとして検索することで、類似性に基づいた超分子モデリングに利用可能なテンプレート(既知構造情報)の情報が得られる(Fig.1)。
• 疾患関連変異を超分子モデル上にマッピングするツールMutation@A Glanceを高度化し、疾患メカニズムの解析やドラッグデザインを支援する。Mutation@A GlanceはdbSNP、ClinVar、CONSMICなどの疾患関連変異や多型の情報と、それらの既知タンパク質立体構造上へのマッピングの情報を保持しており、新たに発見された変異と既知変異の立体構造上での関係を解析できる(Fig.2)。
• 承認薬(Drug)、ヒトタンパク質(Target)、および疾患医療統計の情報を保持し、Drug-Target-疾患・医療統計の組み合わせを検索することができるデータベースDTX(Drug Target Excavator)を開発した。承認薬(Drug)情報には、薬効(ATCコード)・化合物分類(CASコード)・国立医薬品食品衛生研究所既存化学物質毒性データベース(JECDB)からの化合物毒性情報などが、ヒトタンパク質(Target)情報には、ホモログを含めた立体構造の解明の程度・マップされる疾患関連変異の個数・GWASにより疾患関連性が指摘された回数などの情報が含まれる。疾患医療統計は国際疾患分類(ICD-10)・医薬品医療機器総合機構(PMDA)の副作用情報、厚生労働省NDBオープンデータからのレセプト情報(薬価・医療費)・患者数・死亡原因の情報が含まれる。ターゲットタンパク質のアミノ酸配列やドラッグ候補の構造をクエリとすることで、類似したドラックターゲット・既存ドラッグ・関連した疾患の関係をグラフとして解析できる(Fig. 3)。

[3] 支援技術の利用例

• 超分子モデリングパイプラインを構築し、疾患関連遺伝子産物のモデリングによる疾患メカニズム解析を支援した。これまでにプリオン病(BSE・CJD)の原因とされるPrP^Scの構造 (東北大学、Structure, 22, 560-571, 2014)、Aicardi-Goutieres症候群関連タンパク質IFIH1ーRNA複合体(京都大学、Am. J. Hum. Genet. 95, 121-125, 2014)、カンジダ症の原因遺伝子STAT1 (理研、J. Biol. Chem. 292, 6240-6254, 2017)など、50件以上の疾患関連分子モデルを構築して支援研究者に提供した。
• 古細菌から新規に発見された、バックグラウンド配列に依存せず塩基ミスマッチDNAを特異的に切断するエンドヌクレアーゼEndoMS(NucS)-PCNA-DNA複合体モデルを構築し、ミスマッチ塩基認識メカニズムの解析を支援した。この支援研究はEndoMSを用いたPCRによる簡便な遺伝子診断技術の開発研究に発展した (九州大学・タカラバイオ株式会社、NAR 2016:Breakthrough Article, Structure 2017,「耐熱性ミスマッチエンドヌクレアーゼの利用方法」PCT/JP2015/075603)(Fig. 4)。
• 超分子モデリングパイプラインを用いたモデリングにより、flap endonuclease (FEN)-DNA ligase (Lig)-PCNA(DNA clamp)-DNA複合体など、クライオ電顕解析における超分子モデル構築を支援した(Sci. Rep. 8:16209, 2018) (Fig. 5)

[4] 支援担当者の研究概要

• 構造データベースと相互作用データベースの統合による知識ベース超分子モデル構築法を開発した。この方法により約4,500のヒトタンパク質超分子モデルを構築し、1,001の新規PPI(Protein-Protein Interaction)インターフェースを予測し、10種のヒト疾患についてPPIの関与を始めて示した (Sci Rep. 5:16341, 2015、IIBMP2015 Excellent Research Award)。Mutation@A Glanceを利用し、これらのモデルの相互作用インターフェースと疾患関連変異の形質発現様式(ドミナントネガティブ、機能獲得、ハプロ不全)の相関を解析したところ、機能獲得変異はドメイン間相互作用、ハプロ不全はタンパク質-DNA相互作用に対するオッズ比が高いことが判明した(Sci Rep. 7:8541, 2017)。また、超分子複合体内の複数のサブユニットにGWAS(全ゲノム相関解析)データをマッピングし、同一GWAS形質が有意に多くマップされる超分子モデル(疾患関連超分子)を1,226個特定した。これらのモデル中には、ある疾患や形質に関連した変異がマップされた複数のサブユニットと相互作用していながら、自身には同じ疾患や形質のアノテーションが付与されていない(未発見の疾患関連遺伝子の可能性がある)サブユニットが174種類存在した。これらのサブユニットの多くは、リン酸化シグナル伝達系の必須遺伝子にコードされるハブタンパク質であることが示された。また、複数のGWAS形質がアサインされるが、関連変異がマップされるサブユニットがGWAS間で重複しないモデルは642個存在した。これらのモデルは異なる疾患の関連性を解析するために利用できると考えらえる(Fig. 6)。
• プラットフォーム機能最適化ユニットで開発中のVaProSの高度化を目的として、タンパク質配列やドラッグ構造をクエリとして、クエリ配列の立体構造の新規性やドラッグターゲットとしての新規性などの調査を行うデータベースシステムDrug Target Excavator (DTX)を開発した。新規創薬ターゲットの発見のために、DTXを用いて「疾患」-「疾患関連遺伝子(タンパク質)」-「既知のDrug Target」?「承認薬(Drug)」の間の関連性について調査を行った結果、合理的創薬の典型的なパターンである「疾患関連遺伝子が既知であり、承認薬が存在し、なおかつターゲットは疾患関連遺伝子(タンパク質)そのものか、それと直接相互作用するか、あるいは同一パスウェイ上に存在する」に該当する疾患は、全体の8％であった。最も多いパターンは、ターゲット発見がボトルネックになっていると考えられる「疾患関連遺伝子(タンパク質)が既知であるが、承認薬が存在せずターゲットも未知である」場合であり、全疾患の63％がこれに該当した。興味深い点として、「疾患関連遺伝子(タンパク質)が既知であり、承認薬が存在しターゲットも既知であるが、疾患関連遺伝子とターゲットの分子間相互作用は自明ではない」パターンが3％程度存在し、これらを解析することで、効率的ターゲット探索法へのヒントが得られるのではないかと予想される(Fig.7)。