抗体の大量精製、抗体遺伝子クローニング、タグシステムや糖鎖不全株提供
東北大学ではこれまで、がん細胞に特異的反応性を示すモノクローナル抗体(CasMab;キャスマブ)を作製する技術を開発した。CasMab法は、がん細胞のみを攻撃する抗体を高い効率で作製する戦略的プラットフォームである。これにより、新規の標的に対する抗体医薬の開発だけでなく、既存の抗体医薬品を副作用のほとんどない抗体医薬品に置き換えることが可能となった。がん細胞に高発現しているが正常細胞にも発現していることで、抗体医薬の開発が断念されていたような標的に対しても、再び抗体医薬の開発に挑戦することができる。 従来の抗体医薬開発では、その標的の絞り方や開発方法には複数の問題点があった。例えば、DNAマイクロアレイなどの遺伝子発現解析により、がん細胞/正常細胞比が高い抗原が標的となっていたため、がん細胞に高発現していても正常組織にも発現していると、最初から候補分子から外れるというのが一般的であった。また、がん細胞と正常細胞に共通に発現している膜タンパク質の糖鎖構造の差を質量分析計などによって検出しようとしても、膜タンパク質への糖鎖付加には不均一性があるため、がん細胞特異的糖鎖構造の検出には限界がある。さらに、がん特異的糖鎖構造が発見されたとしても、特にO型糖鎖を人工的に大量合成することは非常に困難である。従って、がん特異的糖鎖構造を付加した膜タンパク質を、免疫原やスクリーニングのために、十分に用意する段階には至っていない。これらの問題点をすべて解決する方法を検討した結果、CasMab法の開発に至った。 すでに我々は、ポドプラニンという血小板凝集因子/転移促進因子に対するCasMabの開発に成功した。ポドプラニンは、腎上皮細胞、リンパ管内皮細胞、肺胞上皮細胞のような全身の正常細胞にも高発現しており、抗体医薬の標的にはならないとされていた。しかし、ポドプラニンに対するCasMabを作製することにより、ポドプラニンが高発現する脳腫瘍・肺がん・食道がん・悪性中皮腫などを抗体医薬で治療することが現実的となってきた。