アミド塩基の触媒的脱プロトン化と求電子剤との反応による様々な置換複素芳香族化合物の合成及び天然物とその合成中間体の変換
本研究では、反応系内でフッ化物塩及びアミノシランからアミド塩基を発生させ、これが複素芳香族化合物の炭素-水素結合の脱プロトン化と求電子剤への付加を促進する触媒システムを基盤技術とする。アミド塩基の触媒活性はカウンターカチオンの種類や窒素原子上の置換基で調整でき、複素環化合物やカルボニル化合物等に含まれる高活性から低活性の各種炭素-水素結合(pKa値24-35)を反応点として利用できる。加えて、シアノ、エステル、ハロ基等の求電子性置換基を損なわずに、炭素-水素結合の変換を実施できる特徴がある。n-BuLiやリチウムジイソプロピルアミド(LDA)を化学量論量作用させる従来型の反応系とは官能基許容性、温和な反応条件の観点から一線を画す。
複素芳香族化合物は窒素、酸素、硫黄等のヘテロ原子が生体分子の活性部位に配位して生物活性を発現するため、その効率的合成法の開発は重要である。代表的手法として、炭素-水素結合のブレンステッド塩基による脱プロトン化及び求電子剤とのカップリング反応がある。従来は、n-BuLiやLDA等の強塩基が化学量論量用いられた。一方、当研究室では、反応系内で触媒量のフッ化物塩及びアミノシランから発生するアミド塩基を触媒的に用いる変換反応を開発してきた。機構的には、生成物とアミノシランからアミド塩基を再生して触媒サイクルが構築される。本手法では、フッ化物塩としてアルカリ金属塩や4級アンモニウム及びフォスファゼニウム塩が利用でき、カウンターカチオン及び窒素原子上の置換基に応じて触媒活性をチューニングできる。有機分子中に多数含まれる炭素-水素結合の中から標的の炭素-水素結合を選択的に官能基化し得る方法論の構築に取り組んでいる。これまでに、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、チオフェン、フラン等を求核剤として、カルボニル化合物やヘテロ芳香族N-オキシドとのカップリング反応が室温付近の温和な反応条件下で進行することを示した。従来の化学量論量の強塩基の反応では-78℃の低温条件を必要とすることとは対照的である。特に、これらの反応の多くでは、エステル、ハロゲン、シアノ基等の求電子性官能基存在下で目的の反応が実施でき、高い官能基許容性を示す。なお、本研究開発課題では、複素芳香族類を反応基質の代表に位置付けているが、これに加えて、スルホニル、アミド、ピリジル、シアノ基のα位sp3炭素-水素結合(pKa 35程度まで)の変換にも展開できることを示した。最近では、各種複素芳香族化合物の1炭素増炭反応(ホルミル化)やベンジル位sp3炭素-水素結合位でのスチルベン形成反応を開発した。